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2022.11.22

高エネルギー原子核衝突反応における 超低運動量粒子の起源を新たに特定しました

理工学部機能創造学科の平野 哲文教授と、博士後期課程3年の金久保優花さん(現ユヴァスキュラ大学 博士研究員 兼 上智大学 理工共同研究員)、国際教養大学の橘 保貴助教の研究グループは、高エネルギー原子核衝突反応(用語解説1)における非常に小さな運動量を持つ粒子の起源を新たに特定しました。超高温物質「クォーク・グルーオン・プラズマ」(用語解説2)の物性を解明するうえで、この非常に小さな運動量の領域における粒子が重要な役割を果たすことが分かりました。

高エネルギー原子核衝突反応は、約10-23秒という非常に短い時間で起こるにもかかわらず、多数の過程が複雑に絡んでいます。衝突実験で測定されたハドロン粒子(用語解説3)のスペクトルには、理論的には説明できない粒子数の増大があり、その起源は長年に渡って特定できていませんでした。本研究グループはこの反応を詳細に記述する次世代の枠組みを構築することで、非常に小さな運動量を持つハドロン粒子は、大きな運動量を持つクォークやグルーオンの破砕現象(用語解説4)が起源であることを新たに明らかにしました。衝突反応によって得られた実験データを詳細に解析することで、生成されたクォーク・グルーオン・プラズマの粘性といった輸送的性質を引き出す試みが行われてきました。しかし、これまでは理論側における粒子数不足問題のため、その定量性には疑問が呈されていました。本研究において、非常に小さな運動量を持つハドロン粒子の起源が新たに特定されたことにより、クォーク・グルーオン・プラズマの物性を定量的に理解する道筋が開けました。

本研究成果は2022年11月18日に米国物理学会が出版する学術論文誌 Physical Review C に掲載され、特に注目される論文として Editors’ Suggestion に選ばれました。原著論文はこちら

研究成果の詳細については、プレスリリースをご覧ください。
プレスリリース(875.66 KB)

【用語解説】

  1. 高エネルギー原子核衝突実験
    原子核を光速の99%以上に加速し、衝突させることにより、その大きな運動エネルギーの一部を熱エネルギーに転換し、素粒子極限物質「クォーク・グルーオン・プラズマ」の物性の解明を目指す実験。CERN(欧州原子核研究機構)の大型ハドロン衝突型加速器(Large Hadron Collider: 略してLHC)やブルックヘブン米国立研究所の相対論的重イオン衝突型加速器(Relativistic Heavy Ion Collider: 略してRHIC)などで主に行われている。
  2. クォーク・グルーオン・プラズマ
    物質の基本構成要素である「クォーク」とそれらの間に力を伝える「グルーオン」からなる温度にして数兆度の達したプラズマ状態。ビッグバンから約10マイクロ秒後の宇宙初期に宇宙全体を満たしていた。
  3. ハドロン粒子
    クォークやグルーオンから成る強い相互作用をする複合粒子。クォークやグルーオンがカラー荷を持っているのに対し、それらが複数集まることでカラー荷が中性(白色)になった状態。
  4. 破砕現象
    カラー荷を持ったクォークやグルーオンに付随する強い場から、複合粒子であるハドロンを生成する過程。